相棒 Season4
第5話「悪魔の囁き」
主演:水谷豊、寺脇康文
ゲスト:小日向文世、高橋一生 他
初放送は2005年
前編「密やかな連続殺人」で、一応犯人は判明した、が...。
謎は残ったままです。
「犯人」村木重雄(小日向文世)は10件の犯行を自白し投身自殺した。
が、物証ははじめの7件分のピアスのみ。
交通事故にあった後の不自由な体では今回の犯行は難しい。
捜査一課は、妻・順子(山下容莉枝)が共犯と考える。
引退した刑事・佐古の屋台で飲む杉下右京(水谷豊)と亀山薫(寺脇康文)。
犯人は判ったけど死なれてしまったと報告する。
意外な大事件であったことに感慨深げな佐古。
ピアスを佐古に返そうとする亀山。
事件全体がはっきりしない、まだ早いと言う佐古。
右京は薫に訊ねる。
「亀山君、君は本当に村木さんが残り3件で手を下したと思いますか。」
「だって村木本人が言ったじゃないですか...事件は表にでていなかった、10件というのは犯人しか知らない、だから村木が犯人だっていう裏付けになる、でしょ?」
「しかし部屋からはピアスは7点しか見つかっていません。残り3点ははどう考えるんですか」
「捨てたん...じゃないですか、ねぇ。」
「人の命を奪いかなりのリスクを冒してまで手に入れた物を簡単に捨てたりはしませんよ」
「じゃ右京さんは残りの3件はやっぱり別人がやったと思ってるんですか」
「はい」
「もしですよ。もし他の犯人あるいわ共犯がいたとして、ピアスの秘密は村木に近い人間しか知り得ない、やっぱり村木の奥さんですか」
「だとすれば、ピアスも同時に見つかっているはずです」
「んじゃぁ、いったい誰なんですかぁ」
「君がそのピアスを佐古さんに返すというのなら、僕が預かりましょうか」
「ええ。俺が持ってます」
「頼むよ」
佐古は、事件の全面解決をふたりに託す。
捜査一課は、共犯として妻・順子を追及するが、非協力的な態度で翻弄する。
右京は、村木の主治医だった精神科医・内田(奥貫薫)から見せたいものがあると呼び出しを受ける。日中は身動きがつかないと、夜会うことにする。
東京の人間をわざわざ埼玉まで連れて行って殺害したのは、それまでの用心深い犯行とは相容れない。
同じ県内で事件を完結させなければ連続犯であることがバレてしまう...東京は13年前に事件を起こした所だ。
なぜこんなミスを犯したのか。
犯人は被害者が埼玉の人間だと勘違いしたと推理する。
被害者の遺留品のティッシュから被害者が浦和で犯人と出会った可能性を探る。
生活安全部の協力を得て、浦和駅前のデートクラブを訪れる右京と薫。
被害者はこのデートクラブに所属しており、事件当日は電話で呼び出されて、その後事務所には帰ってこなっかた事が分かる、が、呼び出しの電話を受けた女は店の金を持ち逃げし行方不明で、誰からの呼び出しか話を聞くことはできなかった。店の客は男とは限らないとオーナーは話し、犯人像に結びつく情報は得られなかった。
一方、妻・順子にはアリバイがあった。
精神科医の助手・安斎(高橋一生)とホテルにいた、と。
手がかりを失う捜査一課。
患者の妻と関係を持っていた助手・安斎を問いただす内田。
「私の管理不行き届きってことね」
混乱する薫は弱音を吐く。
「嫌なら君は降りてもらってもかまいませんよ。...君には聞こえませんかねぇ。殺された彼女の悲痛な叫びが...。聞こえないのなら刑事など今すぐ辞めるべきです」
いつになく厳しい右京にへこむ薫...。
釈放された順子を精神科医・内田と安斎が迎えにくる。
「...それとも私があの人を怪物にしたの...」
「誰の心にも怪物は住んでいるんですよ。」
自宅では事件のことで落ち着かないだろうと、ホテルに部屋を取る。
夜、右京に内田は村木が治療の一環として描いた絵を見せる。
絵には犯行が現れていたのに冤罪のストレスからだと勘違いしてしまった、精神状態を読み違ったと後悔する。
目の前に犯罪者がいたのに止めることができなかったが、もし気がついて犯行を話してもらっていたらどんなに興奮したか、と微笑みを浮かべながら語る内田...。
内田の研究テーマは「悪は人を魅了する」。
人は犯罪者に魅力を感じ、被害者を蔑ろにし心酔する。
それは誰の心にも怪物が住んでいるからだと。
村木の妻は3件の犯行現場には行っていないことが証明された。
妻以外で村木に精神的に近い人物、精神科医の内田が共犯である可能性が浮上する。
内田の講演先と犯行現場は場所と日にちが一致していた
もし犯人とすれば、村木の絵を渡す行為は右京への挑戦のようだ。
今回の被害者の死亡推定時刻はかなり遅い時間であったことが分かる。
右京は内田は高所恐怖症で、今回の犯行は難しいことに気がつく。内田と助手の安斎の所在を確かめる右京。
内田はある部屋を訪れる。
部屋には今回の殺人事件の記事が貼ってあり、悪魔のような不気味な絵も...。
カーテンで仕切られた奥に引き込まれるように入っていく内田。
息をのみ思わず飛び出し、明かりをつける。
そこは悪魔を祭る祭壇のようになっていた。殺人の記事や絵、そして片方だけのピアスが3つ...。
薫が行方不明だったデートクラブの女から話を聞くと、当日呼び出しの電話は男からかかってきたものだった。
悪魔に関する黒魔術の古い本を手に取る内田...。
「先生、勝手に入ってもらっては困ります」
安斎が入ってくる。
「あなたっだったのね」
「いえ。あなたですよ、先生。」
安斎はナイフを出す。
「そのピアス、しっかり持っててください」
内田が居たのは安斎の部屋だった。
サイレンを鳴らし車をとばす薫。
村木の妻と密会の後、安斎が犯行を行うことは十分に可能だった。
安斎は内田に罪をかぶせてて殺すつもりだ。
「先生が悪いんですよ、気づいてしまうから」
屋上から突き落とそうとする。
「やめて」
「その恐怖の顔が、たまらないんだ」
「おやめなさい!」
駆けつけた右京が一喝する。
「来るな!...来たら突き落としますよ」
「やめなさい」
屋上で対峙する右京、薫と、内田を突き落とそうとする安斎。
「最後の3件の殺人は君がやったんですね」
「村木さんが全部自分でやったと告白してたじゃないですか」
「あれは彼なりに君を守ろうとしたのでしょう」
「守る?僕を、どうして...」
「それは、君が彼の連続殺人を受け継いだからですよ」
「...受け継いだ...」
「君は村木重雄という悪魔に魅入られ、魂まで取り込まれてしまった...そうですね」
「...そう...まるで悪魔のように魅力的な人物...僕には素晴らしい出会いでした...彼はつまらないこの世の抑圧から解きはなってくれたんです。」
どこか遠くを見るような安斎。
「...vim patior...vim patior...」
呪文のようにつぶやき始める。
村木は安斎に語る。
「君は...女が最も美しい表情を見せるのは何時か、知っているか?信頼しきった人間に殺されると分かった瞬間さ。涙がねぇ...見開かれた目から嘘のように吹き出すんだ...ぽろぽろ、ぽろぽろ...まるで宝石のようにね...観たいと思わないか?...その顔は...イエス、かな?」
頷く安斎。
村木は安斎に犯行の詳細を語っていた。
「...僕は興奮しました...僕だけに秘密を打ち明けてくれたんです。」
「動機?...君は呼吸をするのに一々意味を考えるかね?」
「いいえ」
「同じ事さ...ただそれが自分に必要だから行う。」
「必要だから?」
「人によって嗜好が違うだけだ...うまい物を食べたり、女を抱いたり、宝石を集めたり...他の人間達が抱く欲望と何ら変わりはない」
手のひらに、7つのピアスが...。
迫る村木に身動きできない安斎。
「なぜ私がピアスを持ち去ると思う?」
「...ピアスをはずすことは、進入、征服を意味するのでは...」
「完璧な解答だ...」
微笑む村木。
「...女達から奪ったピアスは私の力の象徴だ...それを妻に与えることがどんな意味を持つか...君ならわかるだろ?」
「...え...ええ、わかりますよ。奥さんを自分の支配下に治める...」
「それでこそ犯罪心理学者だ。我々の気持ちを見事に理解している...」
見つめる村木は繰り返し呟き始める。
「...vim patior...vim patior...vim patior...」
殺人の快楽について語る村木の虜になった安斎。
「私はもうこの趣味を続けられる体じゃない...さあぁ...どうする?」
「ひとつだけ聞きたいことがあります。あれだけ殺人を犯したのにどうして捕まらないんです?」
「同じ県内で事件を起こしてはいけない。証拠を残してはいけない。そして同じ手口を続けてはいけない。そうすればこの国には犯罪記録を統合するシステムがないから連続殺人が起きていることさえ警察は気がつかない...」
微笑む村木。
「...快楽は長く続く方がいいだろう?」
「...そうですね...」
「...はじめて見たときにわかったよ...私と同じ目をしている...」
最初の殺人は内田の講演についていった福岡で、つぎが京都、そして埼玉。
「最後の遺体が東京に流れ着いたのがお前にとって誤算だった。東京はかつて村木が犯行を行った場所だったからな...このピアスと右京さんがいなけりゃ13年前の事件と今度の事件との僅かな類似点に気づく人はいなかったけどな」
迫る薫。
「快楽のためだけに人の命を奪うなんて」
愕然とする内田。
「先生だって認めていたじゃないですか、悪は人を魅了するって...ひとたび怪物が目覚めたら自分ではもうどうすることもできなかった。これは不治の病なんですよ、先生。」
「病だとぉ」
いきり立つ薫。
「そう。救ってほしいのは僕、本当の犠牲者は僕なんですよ。」
「いい加減にしなさい!」
右京が恫喝する。
「君も村木重雄も、妄想をつなぎ合わせて自らの欲望のために勝手な理屈を作り上げただけです。そのあげく尊い人の命を奪った。それを病気とは、何事ですか!」
安斎に迫る右京。
「うるさい、黙れ。」
「どんなに御託を並べようと君は自分自身と戦いもせず欲望に身を任せた、それだけの事じゃないですか。」
「うるさい、黙れ黙れ」
興奮した安斎は内田を投げ落とそうと引きずりあげようとする、が、恐怖でへたり込む内田は動かない。
安斎は内田をはなすと、力なく屋上の端に立つ。
「僕は捕まらないよ。あの人が呼んでるんだ。」
そのまま飛び降りる、が、薫が安斎の腕をすんでのところでつかみ引きずりあげる。
「そんな簡単に死なれてたまるかぁ。」
薫が安斎に怒りをぶつける。
「いいか、てめえに、いや、てめえらに命を奪われた人間が絶対にそんなことは許さないんだよ」
事件の解決を屋台の佐古に報告する薫。
喜んだ佐古は今夜は奢りでと、辞去する薫に右京は、
「先輩の言葉に甘えましょう」
精神科医の内田は身近に殺人犯がいたのに気がつかず、何もできなかったことを悔やむ。
「医師としても、犯罪心理学者としても失格です。」
「そうでしょうか。先生にはこれから研究すべきテーマがあるじゃありませんか。人はいかに悪の魅力から回避できるか、今回の事件を体験した貴方なら誰よりも真摯に取り組めるはずです」
「そうですね...それを研究するのが私の使命かもしれません」
「成果を期待しています」
捜一がからまないとうまく行きますね(爆)
後編はまるっと解決編。
「相棒」でこういうのも珍しいパターンですね。
右京ひとりで解決と、いうより、薫にヒントを与え導くように考えさせて...。
冷静沈着なはずの右京さんがキレて安斎に怒りをぶつけ怒鳴りつける、っていうのもレアです。
村木順子の変加減半端ないです。
伊丹はにべもなくあしらわれ、三浦まで「おじさん」呼ばわり...。
やっぱり村木、死んでました(笑)
小日向さん、前編よりむしろ登場時間は多いです。
冒頭の投身自殺、安斎に犯行を語るシーン、13年前の絞殺シーン、すべて過去の回想として登場。
合計7、8分ほどでしょうか。
安斎に自分の犯罪とその美学を語るところは、怖さ全開です。
微笑みを浮かべ、ヌメっとした爬虫類のような気持ち悪い佇まい。
(柳沢教授の娘婿と同一人物が演じてるとはとても思えません...)
足が不自由なフラフラさ加減もかえって怖さを増幅してます。
流石、元人気予備校講師、生徒(安斎)にしっかり連続殺人を伝授してます。
が、出来の悪い生徒で、先生(村木)まで道連れに(爆)しちゃいました。
蛇足その2。
「vim patior(ウィン・パティオル)」の説明は後編でも全く無し!
そんなに一般的なのか、な?ってググってみました、が、やはりよく分かってない方が多いようです。
ラテン語で「抑圧されている」の意、まではたどり着いてますが、悪魔をあらわす言葉ってのまではお分かりでないようで...。
初放送が今から約5年前で、再放送も何回かあったようですし、DVDも入手(レンタルも)可能なのにねぇ...。