以下は舞台「国民の映画」KAAT千秋楽(大楽)中心に語る、戯れ言の続き(その5)です。
例によって一観客の(妄想を含んだ)雑感、感想です。
大部分を記憶に頼っております故に、多少の間違い、勘違いはご容赦を...。
ストーリーを追って行きますのでネタバレし放題ですので、お好みでない方はここでお引き取りを...。
ヤニングスは気を取り直して話し始める。
「今や国民が一丸とならなくてはならない時、こんな時こそ我らが誇り、鉄血宰相・ビスマルクの生涯を描くべきではないでしょうか」
「(失望して)まぁたぁビスマルクかぁ」
明らかに興味を失ったゲッベルス。
「(必死に)確かに前回の『ビスマルク伝』からまだ一年しか経っておりませんが...この間のあれは、はっきり言って失敗作、大臣も納得がいっていないと伺いました」
「あれにはがっかりさせられた」
「何しろ主役の男がいけない...ビスマルクに見えない。だかからこそ今度は決定版を作ります」
「ビスマルク役は誰だ」
「私です」
「監督は?」
「私」
少々あきれた様子のゲッベルス。
「まあ、聞こう」
「少年時代からドイツ統一を成し遂げ、初代宰相になるまでの波乱の人生を描きます。青年期から晩年に至までこの私が入魂の演技で完璧に演じきってみせます。例の底なし沼のエピソードももちろん折り込みまして...」
ヤニングスはピアニストに指示を出し、一人芝居を始める。
「おーいペーター...ペーターは何処だ...おーいペーター...」
少年・ビスマルクを裏声で演じる。棒読みすれすれの台詞とあたりを探す大げさな芝居。ピアニストが森の中のフクロウの効果音を付ける。
「...ペー...ペーター!」
何かを見つけて大げさに驚く。
「お前沼にはまってしまったのか...よし僕が今助けてあげよう」
手を延ばして身を乗り出す。
「...ズブズブズブ...あ!ここは底なし沼!底のない沼、底なし沼!」
ピアニストは感傷的なメロディーを奏で、ヤニングスはわざとらしい芝居を続ける...。
「...友よ...助けてほしいか?しかしそれはできない...何故ならば僕が沼に入ると二人とも死ぬ可能性があるからだ...あああ...諦めてくれ...そのかわり苦しまずに死ねるよう今君の頭を打ち抜いてあげるよ」
ピストルを構え、少々臭い泣きの芝居...。
「...お!...ああ、そうだ、その調子だ...頑張れもう少しだ」
音楽は明るく転調し、ヤニングスはピストルを捨て、手を伸ばす。
「...よし、そうだ!んん、よし...」
流麗な調子に転じる音楽とともに引っ張り上げる芝居を続けるヤニングス。
「...よくやった、友よ!」
片膝をつき大げさに抱き合う、が、突然素にもどって芝居を中断し立ち上がってピアニストに手でやめるように合図する。
「(ピアニストに)どうもありがとう」
ぶつっと途切れる音楽。
↑「わざとらしく臭い芝居」を大熱演するが、見ているゲッベルスは冷ややか。
風間さん本来は二枚目なのに面白過ぎ。大げさな動きと台詞回しで一番ウケてました。これを冷ややかに(笑わないで)見てるのもかなり辛い(笑)
「ビスマルクの底なし沼」のエピソードは所謂「伝説(=真偽不明)」。撃ち殺すといわれた友人は必死になり沼から助かった、と言うもの。ビスマルクの大胆で手段を選ばぬ辣腕ぶりを示すものとして有名(←でもこんな助けられ方はイヤだ(泣))
「いかがでしょうか」
「結論から言わせてもらえば...ないな」
にこやかだが冷たく言い放つゲッベルス。
「何がいけませんか」
食い下がるヤニングス。
「ビスマルクはいい。問題は描き方だ」
「彼の人生におけるハイライト・シーンは全て網羅しようと思っております」
「そこだ」
「と、申しますと?」
ゲッベルスは得意になって語り始める。
「映画は小説と違って時間が限られている。その中であれもこれも描こうとすると必ず失敗する。単なるエピソード集になってしまってはせっかくの素材が勿体ない。そんな作品を私はいくらも見てきた」
ゲッベルスは下手のソファーから立ち上がり、足を引きずりながら舞台中央に出てくる。
「例えば...例えばこういうのはどうだろう...」
考えながら、ヤニングスが一人芝居をしたあたりにやってくると、”底なし沼”に足をつっこむが、そっと抜いて、避けて立ち止まる。
「...ビスマルクの最も大事な一日に絞ってみる、というのは...」
「なるほど」
「...例えば、罷免される一日をドラマチックに描く、そこからビスマルクの人生そのものを振り返る...」
「回想シーンで描くんですか」
「違う!一日に凝縮するんだ。それなら私も見てみたい」
「(不満そうに)底なし沼は?」
ゲッベルスはさっきは避けた”底なし沼”を足で踏みつける。
「いらん」
ニヤリと笑うゲッベルス。
速攻で立ち直りゴマスリモードになるヤニングス。
「流石ですな、大臣。もう一度その線で練り直して参ります」
「ビスマルク役は?」
「私です」
ニコニコ笑顔のヤニングスと呆顔のゲッベルス。
若い男女の声で玄関が騒がしくなる。
「...では、仕事の話は以上だ」
フリッツが玄関に出迎える。
「グスタフ・フレーリッヒ様、エルザ・フェーゼンマイヤー様、お見えです」
「フリッツ、酒だ...それからこの牛の乳、直ぐ持ってってくれ...臭くてたまらん」
ヤニングスは不機嫌に命令する。
ゲッベルスは上手の鏡の前で髪型を確認する。
↑よく男性が女性を前にするとやっちゃう仕草。明らかに何か、ある(笑)
二枚目俳優・グスタフ・フレーリッヒ(平岳大)と新進女優・エルザ・フェーゼンマイヤー(吉田羊)が親しげに話ながら入ってくる。
「大臣!」
フレーリッヒは親しげにゲッベルスに歩み寄る。
「『偉大なる王者』拝見しました」
にこやかなゲッベルスだが、笑顔は白々しい。
「...もうご覧になったんですか...」
決まり悪そうなフレーリッヒ。
「なかなか良い出来だった。楽しませてもらったよ」
「(嬉しそうに)光栄です。嬉しいな大臣に誉められるの生まれて初めてだ」
「君を誉めたんじゃない、映画を誉めたんだ...」
意地悪く微笑むゲッベルス。
「...まあ、役者が良いというのは優れた映画の第一条件だから、結論としては同じ事だがね」
↑ゲッベルスはフレーリッヒに対しては超上から目線。
にこやかだが小馬鹿にした態度ありあり(笑)
フレーリッヒもおどおどとゲッベルスの出方をうかがっている。
ここでも一瞬にして両者の立場と関係が明らかになる。
ゲッベルスはフレーリッヒの傍らに立つエルザに話しかける。
「(愛想よく)よくいらっしゃいました...えーとー」
えっ?と一瞬驚くエルザ。
「(笑いながら)フェーゼンマイヤーです。エルザ・フェーゼンマイヤー」
↑笑顔爆発で明らかにフレーリッヒとは違う態度。
ゲッベルス大臣分かりやす過ぎ(笑)。
態とらしく名前を知らない振りにエルザも調子を合わせる。
これだけでこの二人何かあるのがバレバレです。
「失礼しました、フェーゼンマイヤーさん」
「お招きいただいて感謝しています」
「楽しんでいってください」
「(おずおずと)よろしいんですか...私のような人間がここにいて」
「(声がひっくり返る)もちろんです」
「緊張しちゃいます」
アハハハと笑うゲッベルス。
「マティーニでございます」
フリッツが三人分の飲み物を運んでくる。
「いただいてよろしいんですか」
「お代金は頂きませんのでご安心ください」
エルザはこういった集まりにはなれていないようだ。
「グスタフ、ちょっと」
ゲッベルスは舞台上手にフレーリッヒを呼ぶ。
「今日は呼んでいただいて本当にありがとうございまた」
フレーリッヒはゲッベルスに駆け寄り、突き飛ばしそうになる。
嫌そうに見上げるゲッベルス。
「他にも言うことがあるんじゃないのかね」
浮かれるフレーリッヒに冷ややかなゲッベルス。
「もちろんです。僕が前線に行かなくて済んだのは大臣のおかげと聞いております」
フレーリッヒは更にゲッベルスに駆け寄り、勢い余って突き飛ばしてしまう。
ゲッベルスはフレーリッヒを押し戻す。
「(冷ややかに)私に出来ないことはない」
「(すり寄りながら)大臣には嫌われていると思っていたので、まるで夢のようです」
「グスタフ、君は相変わらずバカだな」
「はい?」
「私は君を許したわけではない」
途端にしょんぼりするフレーリッヒ。
「リタのことはすいませんでした」
「(吐き捨てるように)軽い男だな」
「まさか彼女と大臣が...」
「(遮るように)リタから手紙が来た」
だんだん態度が馴れ馴れしくなってしまうフレーリッヒ。
「今彼女は?」
「チェコに」
「ワルシャワに?」
「プラハだ!」
↑ワルシャワはポーランド(笑)
フレーリッヒの無知さ加減を露呈する会話。
因みに、実際は女優リタ・パローヴァはグスタフ・フレーリッヒの妻でゲッベルスが横取りした形、なのでフレーリッヒが謝るのは筋違い...なんですが...。
「元気にやってるそうだ」
「それは何より」
「生活に困っているようなので金を送ってやった」
「ありがとうございました」
すり寄ってくるフレーリッヒに怒り心頭のゲッベルス。
「(怒鳴るように)なんでお前が礼を言う」
「失礼しました」
「私はお前を生涯許さない」
「しかしお言葉ですが大臣、リタが国外追放になったのは僕のせいではありません」
「(皮肉に)君ほど腹が立つ男もいないが、残念なことに君は人気スターだ。映画は必ず当たる。何万という中年女性たちが君の姿を見て心をときめかす。」
「(自慢げに)確かにある年齢層の女性は僕の笑顔に弱いみたいです」
ウインクをして悦に入るフレーリッヒ。
「(腹立たしげに)だから君は生き延びている、それを忘れるな」
「わかりました」
「戻れ」
「はい」
「待て」
何か思いついたゲッベルスは戻りかけたフレーリッヒを呼び戻す。
「なぜ、彼女と一緒に来た?」
「エルザですか?前の映画で共演したんです」
「グスタフ、同じ過ちを繰り返すな」
要領を得ないフレーリッヒ。
「私の言っていることはわかるね?」
愛想を振りまくフレーリッヒ。
「(独り言)やはり前線に送るんだった...行け!」
下手ソファーで談笑するヤニングスとエルザ。
戻ってきたフレーリッヒにヤニングスが尋ねる。
「彼女はまだ新人らしいな」
「『偉大なる王者』で一緒だったんです」
「フレーリッヒさんにはいろいろ教えて頂きました」
「この娘は伸びますよ」
「私、貴方とも共演したことあるんですよ」
調子に乗ったエルザはヤニングスにしなだれかかる。
「俺と?」
「『世界に告ぐ』!」
「(驚いて)あれにでてたのか!」
「群衆シーンですけど」
「(呆れて)そういうのはお嬢さん、共演とは言わない」
興奮したエルザはかまわず続ける。
「現場で、一度会話も交わしてるんです...私、貴方にぶつかりそうになって、ごめんなさいっていったら、気を付けてって」
手をパチンパチン打ち、大笑いしながら嬉しそうに喋るエルザ。
「(持て余して)お嬢さんそれは会話ではない」
「面白い娘でしょ」
フレーリッヒは楽しそうだ。
ゲッベルスは少し離れた所から三人をうかがっている。
楽しそうな様子に不機嫌だ。
「いらっしゃいませ、レアンダー様」
玄関でフリッツが出迎える。
「あーらフリッツ相変わらず顔色が悪いわね。枯れ木が立ってるのかと思ったわ...どうも皆さん今晩は」
今度は先客がいるので機嫌がいいツアラ。
「(興奮して)わー。ツアラ・レアンダーだわ!」
エルザは悲鳴のような声を上げる。
「大臣、ご免なさい、道が混んでいて遅れてしまいました。お呼びいただいて光栄ですわ」
「今日はピアニストも用意してあります。後で是非一曲お願いしたいな、『ツク・ツク』」
『ツク・ツク』の身振りを交えてご機嫌なゲッベルス。
「じゃあお酒は程々にしとかなきゃね」
「全員そろったら始めますのでしばらくお待ちください」
「(不満そうに)まだ来るの?」
「もう何人か」
「まあ、そお...」
↑せっかく出直したツアラだったが、最後に登場とはならずガッカリ
「あー。ツアラ・レアンダー!」
大喜びのエルザを素通りしてヤニングスに挨拶するツアラ。
「遅くなりました」
「道の向こうに止まってたのは君の車じゃなかったかね」
態とらしいツアラに苦々しくヤニングスが突っ込みを入れる。
「あら。そうかしら」
とぼけるツアラ。
「(フレーリッヒに)あ。私この間ようやく見たわ『メトロポリス』」
「ありがとうございます」
「何あれ、さっぱりわからない...あ、貴方は良かったけどね」
↑映画「メトロポリス」は1927年公開のサイレント映画。設定は1941年末なので「この間」見たは少々不自然。日本の観客にもわかる、フレーリッヒ主演作品って選択ですか、ね...。
エルザが会話に割り込んでくる。
「レアンダーさん、わたし貴方の映画ほとんど見てます」
「ありがとう...どちら様?」
「(はしゃいで)エルザ・フェーゼンマイヤー、女優です」
騒々しいツアラもエルザのテンションの高さには易厭する。
「今日は一体どういう催しなんですか...ヤニングスにレアンダーに僕」
フレーリッヒが口火を切る。
「自分で言うのもなんだけど、凄いメンバー」
ツアラも興奮気味。
「大臣は新しい映画の企画を発表するらしい」
ヤニングスは感慨深げ。
「私たちで?」
「楽しみだな」
「楽しみですねえ」
エルザも話に加わろうとするが、ツアラは煙たがっている。
「そういえば、さっき表でグリュンドゲンスを見た気がする」
「まさか他人のそら似だろう」
信じられないヤニングス。
「だけど、あのやたら深刻そうな顔は間違いないと思うけど」
「グリュンドゲンスもか!...こりゃ益々凄いことになってきたなあ」
笑う三人。
会話を邪魔しないようにフリッツがグラスを換えに来る。
「お食事の前に軽い物を用意してあります」
「素敵!頂きます!」
相変わらずテンションの高いエルザ。
「よろしければお持ちしましょうか」
「(フリッツを遮って)僕が取ってきてあげるよ」
格好をつけるフレーリッヒ。
「すみませーん」
嬉しそうなエルザ。
「流石色男はちがうわねぇ」
冷やかすツアラ。
上手奥のテーブルからつまみを取ろうとするフレーリッヒをゲッベルスが睨む。
少々萎縮するフレーリッヒ。
「ヤニン、ちょっと」
「ん?」
ツアラとヤニングスは内緒話を始める。
「どうだった」
「何が」
二人にまとわりついてくるエルザ。
「あなたちょっとあっちいってて...」
ツアラが追い払う。
「ビスマルク!」
「いい感じだ」
「大臣の反応は?」
「上々だ。これから企画を練りなおして、もう一度持って行く」
↑実際には散々なプレゼンだったにも関わらず、好感触の振りをするめげないヤニングス(笑)
「私はどうしてもヨハンナをやりたいわけよ」
「まかせとけ」
「ガルボには負けられないの」
「永遠のライバルだもんな」
「やめてよ」
「ガルボは最近きてる、からなあ」
「向こうががナポレオンの愛人を演じるなら、こっちはビスマルクの妻よ」
「ちょっといいですか」
ゲッベルスがエルザに声をかける。
ついて行くエルザ...。
親しげな二人に興味津々のツアラ。
「あの娘は何なの」
「決まってるだろう大臣の新しい”これ”だ」
「そう言うこと?」
「そうでもなけりゃ無名の女優がこんな所に呼ばれるか」
「偵察してくるわ」
噂話大好きのツアラは喜々として二人の会話を盗み聞く。
「これは、デューラーだ」
早速自慢の絵を見せるゲッベルス。
「すごーい」
「芸術にはいくら払っても良いというのが私の持論でね...残るものだから」
「素敵なおやしきですねぇ、大臣」
「(照れたように)その、”大臣”というのはやめてもらえないか」
「だって”大臣”でしょ?」
笑うゲッベルス。
「何とお呼びすれば?」
「”博士”と、...これでも一応博士号をもっているんでね」
「”ゲッベルス博士”?」
「大臣は何時かは辞めるときが来るが、博士は死ぬまで博士だから」
「了解しました、博士...ウフ」
もっと話をよく聞こうとツアラは後ろから更に近ずく。
「そういえば、君の名前なんだが、それは本名?」
「エルザ・フェーゼンマイヤー?本名ですよ」
「売れる女優の第一条件は覚えやすい名前だ。今のうちに芸名にしておくと良いかもしれない」
「じゃあ、博士つけてくださいよ」
「二階の私の書斎に人名辞典がある、それで気に入った名字を探そう」
嬉しそうにいちゃつくが後ろのツアラに気がつく。
「あとどなたがお見えになるんですか?博士」
慌てたツアラは誤魔化そうとする。
「今にわかる」
不機嫌に答えるゲッベルス。
ツアラは下手のソファーのヤニングスの所に駆け戻る。
「間違いないわ、これから二人で書斎にしけ込むつもりよ」
「俺は直ぐにピンときた、あれはどう見たって大臣の好きなタイプだ、リタにそっくりじゃないか」
「”博士”って呼んだ方がいいみたい」
ゲッベルス足を引きずりながらが階段を上がっていく。
「見て!...時間差作戦だわ、イヤラシ〜い」
嬉しそうに話すツアラ。
入れ替わるようにマグダが庭から戻ってくる。
「皆様お見えでございます」
フリッツがすかさず寄り添う。
「あら皆さん、いらっしゃい...ヤニングスさんにフレーリッヒさん、そしてツアラも」
愛想笑いのマグダ。
「ご無沙汰しております」
ポーズをキメて魅力をアピールしながらフレーリッヒ。
「お元気そうね」
ツアラはマグダの様子をうかがいながら。
「楽しんでってくださいね」
ヤニングスは不思議がって聞く。
「奥様伺ってもよろしいでしょうか」
「何でしょうか」
「何をなさってたんですが」
マグダが泥で汚れた手を顔の前あたりに上げているのを真似しながら聞くヤニングス。
「ちょっと草木の手入れを」
↑泥が他につかないように手を持ち上げてる感じはドラマ「スチュワーデス物語」の教官(演じるは風間杜夫!)の婚約者、事故で手を失い義手になってしまったピアニストのようです...。
フリッツに愚痴るマグダ。
「説明を聞くだけのつもりが、もうあの人が夢中になってしまって」
「それは災難でございましたね」
「部屋に戻ってます」
「それが良いかと」
「(客に向かって)ごゆっくり」
登りかけた階段から下りてマグダに駆け寄りるエルザ。
「ワー、初めましてエルザ・フェーゼンマイヤーと申します」
「ようこそ」
嬉しそうなエルザに迷惑そうなマグダ。
「女優です...まだ駆け出しなんですけど」
「がんばって...」
「ご主人には大変お世話になっています。奥様のお話はいろいろうかがっていますわ...私にとって理想の夫婦像なんですよ」
「(愛想笑いしながら)ありがとう....」
庭からヒムラーも戻ってくる。軍服を脱いで前掛けをし、寒さで震えている。
「お、お、お、奥様に、肥料の正しいやり方をお伝えして、さ、さ、差し上げ◎※×♂」
最後は何をいってるのかわからないヒムラー。
「それはありがとうございました」
フリッツが出迎える。
「ああ、奥様...」
階段を上りかけているマグダを呼び止める。
「...これだけは覚えておいてください。冬は草木にとっては一年のうちで最も大切な時なんです。今きちんと有機肥料を与えておけば春には、その結果がでる!」
「(嫌々ながら)すいませんでした、ごきげんよう」
「(フリッツに)バスルームを借りたい...うー寒い」
「どうぞこちらへ」
「上着を後で持ってきてくれ」
「かしこまりました」
上手から出て行く二人を見送って、ヤニングス。
「今のは誰だ」
「確か古い脇役ですよ」
勘違いするフレーリッヒ。
「...共演したかな...」
腑に落ちない様子のヤニングス。
↑制服を脱いだヒムラーにだれも気がつかない。存在感なし、再び...。
「マグダ!」
ツアラはマグダに駆けよる。
「ご免なさい、ちょっと手を洗ってきたいの」
「ちょっと!」
ツアラはマグダをのぼりかけた階段から、上手の前面に無理矢理引っ張ってくる。
「余計なお世話かもしれないけど...」
「長くなる?」
「...貴方のためを思って言ってるのよ...(声をひそめて)旦那また新しい女作ったみたい」
振り返るとエルザが階段を上がるところ。
「(嬉しそうに)時間差作戦!旦那が先に待っているって寸法よ...一応貴方の耳にも入れておこうと思ってね」
「(呆れたように)余計なお世話ね、ツアラ」
「あらそおぉ?」
「私にとってはどーでもいいこと、もう慣れっこだし」
「考えてみたらあんたが一番女優かもね」
「あら、どうして?」
「世間を欺いてるものね...理想の御夫婦」
↑噂話大好きで思ってることは何でも口に出してしまうツアラ。
後先考えなしの口の軽さは物語が進むにつれ、とんでもない結末の引き金になってしまうことになるのだが...。
戻ったヒムラーはフリッツに説明する。
「フリッツ、カイガラムシの幼虫だ。めぼしい物は取り除いておいたから...」
「助かります」
「...おそらく...ワタヌキカイガラムシだろうな...カイガラムシは薬より手で取り除いた方が早い」
カイガラムシの入った布の袋を受け取ったフリッツは小さく丸めるようにたたみ始める。
「(袋を奪い取って)どうするつもりだ」
「あとで処分を...」
「虫だって命があるんだ...徒に苦しませないように...」
「(困惑して)どのようにすれば...」
「...いい、私が後で森に返しておく」
「失礼いたした」
袋をのぞき込むヒムラー。
「お?おうおう...怖かったねぇ...よしよし...」
まるで子供をあやすように声をかる。
ピアニストがカチカチとカスタネットを鳴らす。
「...うほほ...ん?...(音に気がついてピアニストを脅す)おおおぅ」
↑いたずらっ子のようにヒムラーをおちょくるピアニスト(笑)。台詞はありませんが絡んできます。
ヒムラーは下手ソファーのテーブルを見て叫ぶ。
「無い!...(静かに)誰かここにあったホットミルクを知らないか」
「俺が片づけさせた」
ヤニングスが面倒くさそうに答える。
「そういう勝手なことをされては困るな」
「すっかり冷えてた」
「冷えたホットミルクが好きなんだ...フリッツに頼んで新しいのを作らせろ」
「随分横柄な野郎だな」
ヒムラーとは気がついていないヤニングスは尊大なヒムラーに腹を立てる。
が、ヒムラーは意に介さない。
「君は誰だ」
「(ツアラとフレーリッヒに)聞いたか!」
ツアラもヒムラーとは気がついていない。
「本当に知らないの?」
「何故私が知っていると?」
「この業界で彼を知らない人はモグリだわ」
「(腹立たしげに)違う!この国で、だ」
ヤニングスが混ぜっ返す。
気のいいフレーリッヒが教えてあげる。
「エミール・ヤニングス、俳優兼映画監督」
「あいにくその方面には興味がないんでね」
「アメリカに渡って第一回のアカデミー男優賞を受賞されたんだ」
「...思い出した!ああ、無声映画の時代が終わって英語のアクセントが酷いことがバレ結局舞い戻ってきた男だ」
「(うろたえて)そういうどうでも良いことだけなぜ知ってるんだ」
「興味はないが調査が私の仕事でね」
「業界の人間じゃないのか」
フリッツがヒムラーの制服の上着を持ってくる。
「私が俳優に見えるかね」
「しかし今日のパーティーは業界の...」
制服を羽織ったヒムラーに驚くヤニングス。
「私は招待客ではない」
「あ”ー」
ツアラが叫ぶ。
「ヒムラー長官!」
ヤニングスも飛び上がる。
「制服の力という物は実に偉大だなぁ」
悦に入るヒムラー。
「(叫ぶように)フリッツ!大至急長官にホットミルクを!...いない...」
↑ヒムラーと気がついた途端、横柄なヤニングスの態度が180度変わる。
その落差が可笑しい。
ツアラも既に紹介されているのに気がつかないなんて、どんだけなんだ(笑)
続きは気長におまちください...。
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